故郷を離れる前に、3人で
毎年家族旅行に行くなんて裕福な経験はしてきませんでした。
しいて言えば、定期的に墓参りで隣県に赴くくらい。
何度も行ったにも関わらず、自分にとっては特別な行事だったのです。
しかし年月が経ち、家族構成も幼い頃とは随分変わってしまいました。
亡くなった者、別れた者、近づいた者。
予想もしなかった家族の形の変化を受け入れながらも、自分の将来の為に学生時代を過ごして。
そして故郷を離れる日に身近にいたのは、母と妹でした。
故郷を離れる少し前、自分たちは再び同じ地を訪れました。
定期的に訪れていた場所も、別れと供に遠くなり。
長らく合っていなかった知人に再会するような、そして再会によって相手の新しい長所を発見するような、そんな気持ちで地を踏みました。
長く一緒に暮らした日々に終わりを告げ、今度は自分が離れてゆく番です。
母と妹と自分と。
通い慣れたはずの地の宿に泊まって同じ風呂に入るだけの、ただそれだけの時間を過ごしました。
妹もいずれ独立し各々がバラバラの道を歩むであろうことを感じながら、充実した人生を送ることが出来ればと、ベッドの中で願いました。
自分が社会人になる前の。
母と娘たちの、思い出です。